「ランプに火を点(てん)ずるに急に芯を出し火を強くする時はホヤの破るることあるは何ぞ」
毎日新聞で面白い記事を見つけました。
その昔、各学校から児童の代表を集めて、学力を競わせる試験があったのだそうです。見出しはその出題例。明治時代の話です。
記事は、「この手の試験は、ほどなく下火にな」ったと続き、今また学力競争の愚を繰り返そうとするのかと、警鐘を鳴らしています。8月29日付中日新聞の社説「木見て森見ずを憂う」も秀逸でした(当ブログ8月30日付け参照)が、この記事も負けず劣らずです。
「学力テストの点数は、低いより高い方がいいんじゃないですか」とおっしゃるお母さんたちの声を聞きます。たしかにそうなんですが、今のやり方では本当の学力はつきません。「試験の点取り競争過熱は教育をやせ細らせ、学力の発展を妨げる。それが集合・比較試験を廃止した明治の教育者の反省だった。何より教育とは先人の経験や英知を次代へ伝える営みのはずである。」毎日新聞はこのように記事を締めくくっています。
以下、毎日新聞9月6日付「余録」より引用
「ランプに火を点(てん)ずるに急に芯を出し火を強くする時はホヤの破るることあるは何ぞ」。ホヤとはランプのガラス製の筒だが、これが理科の問題の一つだったという。いや明治19(1886)年に行われた小学生の臨時合同試験の話である
▲当時は全国各地で地域内の各校から児童代表を集めて学力を競わせる「集合試験」「比較試験」という試験が盛んだった。先の合同試験は山梨県主催の4日がかりの試験で、つきそいの教員や地域の役人も立ち会う大イベントだった(天野郁夫著「試験の社会史」)
▲最終日の成績発表の式には県知事が参列、知事自ら賞状と賞品を授与した。式後には知事招待の「西洋料理立食の饗宴」もあった。だが学校間で学力を競わせるこの手の試験はほどなく下火になる。その弊害のためだった
▲こんな故事を引いたのも、静岡県の川勝平太知事が全国学カテストの県内の成績を市町教委の同意を得ずに公表したと聞いたからだ。明かしたのは一部科目の県内上位校の校長名や市町別成績で、「努力した先生をたたえたい」「格差解消に資する」と主張している
▲文部科学省は教委の同意のない発表はルール違反と知事を批判した。だが教育行政での自治体の首長の裁量が広がる来春からは、学カテストを学校間の競争刺激に用いようとするトップがさらに続出したりはしないか。集合・比較試験への先祖返りが気がかりである
▲試験の点取り競争過熱は教育をやせ細らせ、学力の発展を妨げる。それが集合・比較試験を廃止した明治の教育者の反省だった。何より教育とは先人の経験や英知を次代へ伝える営みのはずである。
(2014・9・6 「毎日新聞」余録……※読みやすくするために改行しました。)