みえ教育ネットワーク

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学力テストで「考える力」は測れない 序列化に役立つだけ 

 8月18日(土)みえ教職員懇話会主催の学力テスト講演会「このテストで子どもたちの学力は測れない」がアスト津で行われ、みえ教育ネットワークからも多くの人が参加しました。橋本博孝さん(三重大学教授)の講演要旨は以下の通りです。小見出しは編集部。
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「人材力」か「人間力」か
 OECDが実施しているPISAは、経済発展を予測するための調査、つまり潜在的な労働力予測調査だ。そこで求められるのは情報処理能力。戦前の神戸製鋼の入社試験は「重い荷物を持ってまっすぐ歩けるか」だったのが、1960年代には「スプートニクの軌道計算ができる」に変わったように、資本の求める力は時代とともに変わる。
 今、産業界が求めているのは、与えられた情報を与えられた条件下で操作処理する能力。PISAはそれを調査している。つまり産業に役立つ「人材力」。私たちが育てるべきは「人間力」。学力観が全く違う。

 学力テストで測られるもの
問いと答えの関係はラファエル(アメリカ)によれば4つのパターンに分類される。
  In the Book
(1)Right There(RT型)
 読めばわかる型
(2)Think & Search(TS型)
 読んで考えなければわからない型
In My Head
(3)Author & ME(AM型)
     筆者の見解に対して読み手の見解を述べる型
(4)On My Own(OO型)
     読み手の見解のみを展開する型

小論文ではない、試験という形式では(1)〜(3)が問題の中心になる。
 PISA型(「人材力」型)であろうが、私たちの求める「人間力」型であろうが、(3)の力量を育てることは重要であるが、日本の学力調査問題では(3)形式が少ないか、全く見られない。それは採点が難しいからだ。1000人くらいの解答文章を専門家がじっくり分析すれば可能だろうが、何万人もの悉皆的調査では不可能と思える。では、何のために実施するのか? 序列化以外に何の目的もないといわざるをえない。大阪の橋下市長は競争させれば学力が上がると思っているが、上がったとしても(1)だろう。何より「競争」では学力は伸びない。岩波ブックレット「全国学力テスト、その功罪を問う」で志水宏吉氏が書いているが、家庭の経済力と学力の相関は明らか。学力を上げるなら、格差是正にこそ手を打つべき。だが、そこには目をふさいで、競わせることに終始している

学力テストを通した「刷り込み」効果
もう一つ大きな問題がある。去年の小学校国語B問題を見てほしい。平成23年 小国B問題 1 

問題全文は国立教育研究所のホームページを参照
http://www.nier.go.jp/11chousa/11mondai.htm

 

 こんな(おりこうな)学級会が実際に存在するとは思えない。しかし、これが全国の小学校に「学級会のモデル」として提示される。この学級会についていけない子は、入口で排除される。こうして「異論」を排除し、「たてまえ」を刷り込んで行く。テストを解いているうちに「これが理想だ」という姿が刷り込まれていく。

 序列化の中の子どもたち
 序列化が子どもたちを苦しめている。三重県はまだそうでもないが、奈良県では中学受験がさかんだ。6年生の3学期の始業式、クラスの児童が(中学受験やその準備のために)10数人しかいなかったことがあった。子どもが全員揃うのは2月に私立中学の最後の試験が終わってからだ。全員が揃っても、落ちた子、通った子、ささくれだった教室になってしまう。
最後に子どもたちの作文を紹介します。(抜粋)



 「(塾に行き初めてから)1週間ぐらいすると、きゅうに体のちょうしがわるくなりました」「じゅくをやすみました。そしたら、体のちょうしはよくなりました。」「私はじゅくにいきたいのに体がきょひはんのうをする。私はもっとからだにいいきかせ、ぜったいにできるといっています。」 Mちゃん

 「ぼくは少ししょうらいが心配になった。ぼくはべんきょうがにがてで、むずかしい受験なんてとうていむりだと思った。頭のすみっこで、自分がびんぼうになったときのすがたをはっきりと想像してしまった。・・・・今までそんなに気にしなかったしょうらいの自分が、急に心配になった。」  Yくん

 「ぼくは塾に行っているけど、しんどいという気持ちはない。でも塾にはきびしいところがある。宿題や授業たいどが悪いといろんなことをされる。ほっぺたをつまむ。それははんぱなものではない。ぼくがうくぐらいにひっぱるから、いたい。またねむりそうになったら、ビンタやこちょこちょをしてきたり、東京タワーという技で窓のほうに向いて、ぼくたちのかりあげのところをひっぱり、10cmぐらうくぐらいに、『東京タワーは見えるか』と聞く。・・・・・・・最後に『うそつけ』と言って、もっとひっぱる。ひっぱられた子はかみの毛がぬけている。」  Kくん

 身体症状を呈しているのに、それでもけなげにがんばる子。学力競争に負けたら、社会でもおちこぼれると思わされ、不安になった子。競争と恐怖においたてられ、結果こそすべてとがむしゃらに勉強する子。しかし、この子はそういう圧力がなくなったら勉強しなくなるだろう。
 わたしたちは明日があるから生きていける。小さいささやかな望みでも持っていれば、明日を期待できる。教育は子どもたちの中に明日を創る、夢や希望をはぐくむ営みだと思う。まかり間違っても教育の名において子どもたちの明日の夢をしぼませることがあってはならないと考える。ともにがんばりましょう

                                   (文責;Y)