みえ教育ネットワーク

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このテストで子どもたちの学力は測れない 8月18日 講演会

 来る8月18日(土)みえ教職員懇話会は、「このテストで子どもたちの学力は測れない」というタイトルの講演会を予定しています。講演するのは三重大学教育学部教授の橋本博孝さん。橋本さんが書かれた学テ批判の文章を紹介します。なお見出しや下線(ブログでは、太字)は、編集部でつけました。
 以下「語り合う文学教育の会」HP所収の橋本博孝さんの文章「二つの「大きなかぶ」 ―小学校での物語作品の授業を考える―」より引用
 
 わたしは、全国学力調査の国語科の問題が、活字文章群がちっとも作品として立ち上がってこない、したがって文学としてまるで働かない授業にさせている大きな要因の一つになってきているのではないかと感じる。
 ご存知の通り、「全国学力・学習状況調査」は、今年度(平成21年度)も六十数億円の予算をかけて全国一斉に行われた。このような調査を悉皆で行うことの愚は多くから指摘されているところだし、結果が、いくつかの自治体で、競わせれば成果が上がるという俗論に利用されていることも、すでに報道されているとおりである。俗論に過ぎないとは言え、教育現場ではこの調査結果の競い合わせ「効果」が不気味に浸透しつつある。そのことがそれぞれの授業実践を次第に大きく縛りつつあることが、最大の問題だとわたしは思う。

 一番顕著なのは、漢字や暗唱の反復練習のおしつけだが、図表や数式を含む文章の読み取りが情報の抜き出し・活用なる用語で国語科の授業内容として増えてきていることも見過ごせない。これは物語作品の授業にも影響を与えている。

 具体的に学力調査問題を見てみよう。今年度のには、物語作品にかかわる問題は小学校中学校で、古典と詩歌を除くが、それぞれ一つずつしかない。
 小学校では、主として「知識」に関する問題とされる国語Aの5に、柏葉幸子の『大おばさんの不思議なレシピ』の短い引用があり、この文章の表現の工夫の説明として次のうちどれがふさわしいかを問うている。

1 美奈と友だちとの関係が分かるように、それぞれの性格や考え方を書いている。
2 美奈が体験したことを、ほかの登場人物に対して語りかけるように書いている。
3 美奈が取り組んだお菓子づくりのことを、つくった順序のとおりに書いている。
4 美奈がお菓子をつくるたびに失敗してしまう様子を、たとえを使って書いている。
 日頃テスト作りを自分でしている教員は、この四つの選択肢の字数合わせにまず感嘆するのではないだろうか。見事なものだと思う。
 それはさておき、これは書き方の工夫を問う問題である。後で述べる「どのように語られているか」を問うているとも言える。それに着目させること自体には意味がないことはないが、問いは「表現の工夫」として位置づけられたものだ。しかもこれ一問である。採点の対象となるテストだから、問いは対応する答えを明確に持たなければならない。問いの質の高さを考えないのであれば、これはこれで仕方ないと言える。が、テストではない実際の授業でこの種の問いが単発的に持ち込まれるとしたら、子どもたちの思考は活字文章群に貼りついたままになる。 

 中学校では、同じく国語Aの3に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のやや長い引用があり三問の出題がある。
【問題文参照】
 先生に銀河の正体は何かと尋ねられ、ジョバンニもカムパネルラも星だと知っていたのに答えられなかった、答えなかった場面だ。

一 A〜Eの出来事を文章の展開に沿って並び替えよ。
時間軸に沿って整理させる問いである。出来事の次元での読解が対象となる。

二 「僕(ジョバンニ)」と「カムパネルラ」が知っているのは何か、四つから一つ選べ。
ここでも四つの選択肢の字数は見事にそろえられている。

三 カムパネルラが答えなかったわけをジョバンニがどう考えたかが分かる言葉を本文中から探せ。
一から三まで、いずれも「何が語られているのか」の次元での読みとりだ。正解は活字文章群の中にある。先にも述べたが、テストは基本的にはこの次元の問いが多くならざるを得ない。それならそれで「銀河鉄道の夜」から出題する必要も必然性も全くない。これらで問われているのは文章の極めて表面的な意味でしかない。それを「情報の抜き出し」などとさも新しい潮流であるかのように言っているところが問題なのだ。

 物語作品からはそれるが、第一回の学力調査ではスーパーのチラシが出題対象とされた、そこでの情報の抜き出しも極めて表層的だったことを思い出す。スーパーのチラシであれば、それは人々の購買意欲に働きかけるために作成されたものである。したがって、何がいくらで買えるか、どれが割安かという読めばわかる情報ではなく、購買層を何ととらえて、いかなる商業的意図をどのように刷り込んでいるかにせまる方向で問いが組まれなければ、チラシという広告手段を読み解いたことにはならない。同様のことが三年間もくりかえされているように思える。

くどいようだが、わたしが案じているのは、このような問いが物語作品の読みとりでも大切だと錯覚させられ、授業に反映することである。現に「いつ・どこ・誰・何」の物語か、という問いだけで場面の読みとするような授業が、あちこちに登場し始めている。

平成21年度全国学力テスト問題 中学国語A

3 次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

「ではみなさんは、そういうふうに川だと言われたり、乳の流れたあとだと言われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊(つる)した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった(注1)銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問いをかけました。
カムパネルラが手をあげました。それから四、五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
ところが先生は早くもそれを見付けたのでした。
「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」
ジョバンニは勢いよく立ちあがりましたが、立ってみるともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎして真っ赤になってしまいました。先生がまた言いました。
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」
やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませんでした。
先生はしばらく困ったようすでしたが、眼(め)をカムパネルラの方へ向けて、「ではカムパネルラさん。」と名指しました。するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもじもじ立ち上がったままやはり答えができませんでした。
先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「では。よし。」と言いながら、自分で星図を指しました。
「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう。」ジョバンニは真っ赤になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼のなかには涙がいっぱいになりました。そうだ僕は知っていたのだ、勿論(もちろん)カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それどこでなく(注2)カムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書斎から巨(おお)きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、真っ黒なページいっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。それをカムパネルラが忘れるはずもなかったのに、すぐに返事をしなかったのは、このごろぼくが、朝にも午(ご)后(ご)にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまりものを言わないようになったので、カムパネルラがそれを知って気の毒がってわざと返事をしなかったのだ、そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がするのでした。
宮沢賢治銀河鉄道の夜」による。)
(注1) けぶった=煙った。ぼうっとかすんで見える。
(注2) それどこでなく=それどころではなく。

一 次のAからDまでを、文章の展開に沿って順番に並べ替えるとどのようになりますか。Aに続けてB、C、Dを適切に並べ替えて書きなさい。

A 先生が黒板につるした星座の図の「ぼんやりと白いもの」を指して何かと尋ねた。
B 先生が星図を指しながら自分で答えを述べた。
C 先生がジョバンニを指名したが、ジョバンニは答えられなかった。
D 先生がカムパネルラを指名したが、カムパネルラは答えられなかった。

二 罫線部「そうだ僕は知っていたのだ、勿論カムパネルラも知っている」とありますが、「僕」と「カムパネルラ」が知っているのはどのようなことですか。次の1から4までのうち、二人が知っていることの説明として最も適切なものを一つ選びなさい。
1 ジョバンニが真っ赤な顔になってうなずき、今にも泣き出さんばかりになっているということ。
2 ザネリがジョバンニを振り返って笑ったり、先生が困った様子になったりしているということ。
3 黒板につるした大きな黒い星座の図の「ぼんやりと白いもの」が、みんな星であるということ。
4 このごろのジョバンニは、毎日教室でとても眠く、本を読むひまも読む本もないということ。

三 カムパネルラは、先生の質問に答えませんでした。その理由についてジョバンニは、次のように考えました。
【          】に当てはまる言葉を本文中から六字で探し、抜き出しなさい。

カムパネルラが先生の質問に答えなかったのは、僕のことを【          】いるからだ

※問題文は、国立教育政策研究所HP「平成21年度全国学力・学習状況調査の調査問題について」より