岩波の月刊誌『図書』の6月号に、作家、赤川次郎氏がなかなかいいことを書いていますので、紹介します。ちなみに、この本、年1000円で、毎月郵送してくれます。(A)
(前略………)この原稿を書いている四月半ば、ドイッの名門オーケストラが来日公演を行っている。
私も数日後に聴くことになっているのだが、知人の音楽家が、そのオーケストラの旧知のメンバーと話したところ、オーケストラのメンバーの内、実に四十人が「フクシマ」の原発事故を理由に来日を拒んだそうで、三分の一以上が「トラ」(エキストラの意味)だということだった。
この秋にも、名門ウィーン・フィル、ベルリン・フィルを始め、数多くのヨーロッパのオーケストラがやって来る。しかし、そのメンバーにも「フクシマ」を理由に来日しない団員は少なからずいるはずで、私たちは果してどこのオーケストラを聴いたことになるのだろうか?
そういう事実が全く報道されないというのも問題である。公演のスポンサーや電力会社への遠慮がないとはとても言えないだろう。それにしても、ヨーロッパの人々から見れば、福島第一原発が今も汚染水洩れを続け、収束、廃炉にする見通しさえ立たない状況で、「アベノミクス」だの「オリンピック招致」だのと浮かれている日本人は、到底理解しがたい存在だろう。
30トンの汚染水が洩れても、「近くに川がないから海には流れ出ていない」と言っているが、では30トンもの水はどこへ行ったのか?子供でも首をかしげる言いわけを平然とくり返す東京電力の人々をテレビで見ていると、プライドを捨てたエリートの哀れな姿にこちらも気が滅入る。
チェルノブイリから四半世紀が過ぎて、今もウクライナでは子供のがんの問題に取り組んでいる。
日本と比べて遥かに貧しいウクライナでも、子供たちにこそ国の未来がかかっているという認識の下で、根気強い調査や対策が続いている。
日本では膨大な税金がまたも公共工事に注ぎ込まれようとしている。子供たちの未来よりも、今の景気なのか。いや、 一体どこがどう景気回復したと言うのだろう?
株価が上ったからといって、誰の暮しが楽になるのか。物価が上り、企業は簡単に従業員を解雇できるようになり、生活保護は削られ……。この政権が高支持率を保っているという記事を見ると、その数字を疑いたくなる。
特に「オリンピック招致」の支持率はとても現実を反映しているとは思えない。大新聞やテレビメディアが信じられないのは何とも悲しいことである。
かつてのバブルの破綻が日本の社会に残した傷。それは単なる景気の悪化ではなく、企業モラルの底知れない低下だった。
二十一世紀の「バブル」は、かつてのそれより遥かにもろい。打ち続く地震、原発事故は、簡単にバブルを吹き飛ばしてしまうだろう。今必要なのは、冷静に状況を見る目である。まだ間に合う。