みえ教育ネットワーク

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小学校英語の早期化・教科化は大問題

「外国語の学習は早いほどよい」は本当か
 みえ労連・みえ教育ネットワークが10月に実施した14市教委との懇談では「小学校英語」が話題となりました。「時間数が増えるが、それをどうやって生み出すか苦慮している。15分×3のモジュールもありかなと・・・」「先生も児童も負担は大変だ。」「来年度から先行実施。先生方の負担を減らすために教委として15時間の指導案を作成中」などの苦労が語られました。「クレスコ 2017年12月号」で江利川春雄さんが小学校英語の問題点を鋭く指摘しています。以下引用します。

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  改定学習指導要領 外国語の問題点          江利川春雄(和歌山大学 

小学校英語の早期化・教科化は大問題
 改訂学習指導要領の外国語(実質は英語)に関する方針は、明治以降の150年に及ぶ日本の英語教育史上、特筆すべき大改悪と言えよう。

 その第一が、理論的・実践的な根拠も、人的・予算的な準備もなしに、小学校の外国語活動を3・4年生に下ろし、外国語を5・6年生で教科化したことである。この方針は、2013年4月の中央教育審議会答申には盛り込まれておらず、決定過程に外国語教育の専門家は参画していない。ところが、翌5月に安倍首相の私的諮問機関である教育再生実行会議が方針化し、翌6月の「第2期教育振興基本計画」で閣議決定された。官邸主導の典型で、恐るべき暴走である。
 

 「英語学習は早く始めるほうがよい」という主張は、学問的な根拠や実証データが乏しく、幻想にすぎない。英語圈で暮らした子どもでさえ、帰国すると数力月で英語を忘れてしまう。日本では日常生活で英語を必要としないうえに、英語と日本語とは言語の特徴が大きく異なる。

 そのため、文字によって読み書きの練習を重ね、文法学習によって文の仕組みを理解しないと定着しにくい。文法の理解に必要な抽象的思考力は中学生の頃から顕著に発達するので、小学校で1年かかった英語力は、中学生なら数力月で獲得できる。そのため、本格的に英語を学んだ子と学ばなかった子との差は、中学2年生頃にはなくなってしまう。

 近年の各種の研究結果をまとめると、以下の5点が指摘できる。
(1) 小学生の外国語の発達は、中学生に比べ 遅く非効率で、特に文法の習得でそれが著しい。まして、週1〜2時間の時間数では 効果は期待できない。

(2) 外国語学習に対する意欲は、小学生では 一般に高いが、中学・高校へと進むにつれて低下し、小学校で学習を開始した効果は ほとんど見られなくなる。

(3) 英語教育をおこなう環境が未整備の小学校では、莫大な予算と人員確保が必要だが、その措置が不充分なため、教員の負担のみが増え、小学校教育全体を劣化させる。また、入試に英語を課す私立中学校が増え、塾通いが過熱し、英語格差が早期化するなど、子どもと家庭の負担も重くなる。
(4) それでも実施するなら、国語教育などと連携し、ことばのおもしろさ・深さ・恐さに気づく「ことばの教育」に力点を置くべき。
(5) 効果が見られないなら、早急に廃止・縮小し、限られた予算と人員を中学校に振り向けるべきである。
 問題山積にもかかわらず、政府が小学校英語の早期化・教科化を進める一因には、財界からの要請に加えて、国民の間に賛成意見が根強くあることへのポピュリスム的な迎合がある。

 『日本経済新聞』(2016年2月14日付)の調査報道によると、英語教育の早期化に賛成する人は78%で、特に小学生の親世代が多い30代女性では9割を超えている。その背景には、「外国語の学習は早いほどよい」という思い込みの浸透がある。そのため、この問題では、保護者に対する粘り強い啓発活動が必要になる。

中・高生の負担増と格差拡大 小学校英語の早期化・教科化は、中学・高校の英語教育に深刻な影響を与える。学習すべき英単語は小学校で600〜700語程度と定められたが、非現実的である。中学校では現行の中2レベルからとなり、小学校の単語数に1,600〜1,800語が加算され、合計2,200〜2,500語となる。現行の1,200語程度と比べ、生徒が接する単語数は実に2倍になる。仮定法が入るなど、学習内容も高度になる。

 高校ではさらに2,000〜2,200語程度を追加し、卒業段階で4,000〜5,000語程度に引き上げられる。これは、現行と比べて3〜7割も増加し、国立大学上位校の入試問題の水準に匹敵する。

 しかも、中学・高校とも、学問的・実証的な根拠もなしに、英語の「授業は英語で行うことを基本とする」と定めてしまった。これでは、英語がわからない、嫌いという生徒が急増するだろう。
 こうした無謀な方針は、2013年4月に自民党教育再生実行本部が打ち出した「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」、つまり上位1割ほどの英語ができる「グローバル人材」育成に重点化するという格差政策の一環である。

 私たちは、子どもの実態と教育要求を第一に考え、教員の裁量権と教育の自由の原則に立って、新学習指導要領を批判し、実践的に乗り越えていく必要がある。

主体的・対話的で深い学び?
 某市の教育委員会が、私が登壇するイベントの後援をキャンセルした。私が小学校英語の早期化・教科化に反対しているかららしい。私は根拠に基づいて意見を述べている。
 
 行政は根拠に基づいて私に反論すべきだろう。没「主体的」に国策追随に走る忖度体質。異なる意見とは「対話」しない。これでどうして「主体的・対話的で深い学び」の旗を振れるのか。振るのは尻尾ばかりなのか。

 だからこそ、私たちは教え子を再び戦場に送らないために、職場の仲間や地域住民と、主体的・対話的で深い運動を進めていこう。 (和歌山大学教育学部教授)
 以上、引用終わり


江利川先生には2017年2月4日「みえ教育ネットワーク教研集会」で講演をしていただきました。