みえ教育ネットワーク

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桃太郎の「正義」とは何か?

  安倍内閣による「道徳の教科化」が進行しています。小学校では2018年度、中学校では2019年度から実施の予定。検定教科書が使われ、国による価値観の押しつけが懸念されます。そんな中、中日新聞でユニークな道徳授業を見つけました。ご紹介します。

(以下中日新聞より引用します)

桃太郎の「正義」とは何か? 独自授業で考え深める 
2015/4/6 朝刊

 


 桃太郎に関する2枚のポスターを使って「正義」の授業をする米津小の鈴木保宏教諭=愛知県西尾市荻原小で

小中学校の道徳教育化

 小中学校の道徳の教科化が進んでいる。授業には検定教科書が用いられる見通しだが、独自の授業に取り組む教師もいる。愛知県西尾市で道徳の教科指導員を務める米津小学校の鈴木保宏教諭(50)は、昔話の桃太郎を通して「正義」を考える授業を行っている。

 「きょうは日本の昔話で最初に登場する正義のヒーロー桃太郎で、正義について考えます」。二月、西尾市荻原小の六年生の出張授業で、鈴木教諭が口を開いた。「桃太郎は鬼退治に行くけど、鬼がどんな悪いことをしたかは一切書かれてないんだよね」

  黒板に一枚のポスターを張った。はちまきを締めたイヌとサル、キジの横顔。「きび団子のため、だけじゃない。」とキャッチコピーが添えられている。二〇一一年度新聞広告クリエーティブコンテストで優秀賞を受賞した作品。「じゃあ何のために戦ったのか」

  児童たちは次々に手を挙げる。「村人たちに英雄とたたえられたいからです」「お宝が欲しかったから」「家族のため」−。

  答えが出尽くした後、鈴木教諭はもう一枚、ポスターを取り出した。「実は、退治された鬼にも家族がいるんだ」

  小さな赤鬼が涙をあふれさせている絵。「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」と殴り書きされている。こちらは、一三年度の同コンテスト最優秀作品だ。

       ◇

 「子鬼は桃太郎のことをどう思っているのかなあ」。投げ掛けられた児童たちは口々に言った。恨んでる、最低最悪、敵を討ちたい、憎い、桃太郎こそ鬼−。
 
  すかさず、鈴木教諭がまとめる。「村人たちには正義のヒーローでも、子鬼には日本一の悪者。立場によって見方は変わるんだね」
 
 子鬼は大きくなったら敵討ちに行くだろう。敵討ちは鬼にとって「正義」と、児童たちは声をそろえた。
 「正義と正義が対立して、終わらない戦いになる。正義のために誰も幸せにならないなんて、おかしくない?」。鈴木教諭が水を向けた。「本当の正義って、何だろう」

   児童たちから口々に出た意見を、鈴木教諭は「みんなが幸せになれることが、本当の正義なんだな」とまとめた。では、桃太郎はどうすればよかったか。児童たちは班ごとに配られたホワイトボードを囲んで議論を始めた。

  班の代表たちが発表する。「本当に皆殺しにすれば良かった」という意見が出た。ホワイトボードには「正義などない!」の文字も。鈴木教諭は「人類の歴史上、その方法を採ろうとして成功した例は一つもないんだよ」。中東地域で繰り返される紛争を例に挙げ、復讐(ふくしゅう)の連鎖につながると告げた。

   ほとんどの児童たちは、「話し合いで解決しよう」。条約を結ぶ案や「ただおまえが悪いと言い合っても解決しない。相手のことも受け入れないと」という声も。鈴木教諭は「みんなが話し合ったように、世の中の仕組みも、法律を決めてみんなが平等に暮らせるようにできている。その結論に行き着いたのが素晴らしいね」と評価した。

       ◇

  最後に問い掛けた。「皆さんの中に正義はありますか」

  戸惑う児童たちに「正義は与えられるものではなく、自分たちで動いていかないとできない」と鈴木教諭。「委員会活動や登下校時の下級生の世話など、与えられた役割を一生懸命やることも正義につながる。荻原小が正義の学校になるよう努力し、後輩たちに引き継いで」と呼び掛けた。

   鈴木教諭は、桃太郎の授業を考案した意図について「正義について真剣に考える機会は大人も含めてほとんどない。道徳の新学習指導要領では社会正義も重要項目の一つだが、扱った教材はこれまであまり存在しなかった」と話す。
(築山栄太郎)


  <道徳の教科化>安倍晋三首相肝いりの教育再生実行会議が、いじめ問題への対応策の一つとして提言。中央教育審議会中教審)の答申を受け、文部科学省が3月27日、教科化に向けた新学習指導要領を告示した。

 小学校では2018年度、中学校は19年度から実施。検定教科書が作られ、児童生徒は記述式で評価される。国による価値観の押し付けや、評価を気にして児童生徒が多様な価値観を損ねないか懸念する専門家も多い。